マネージャーであれば誰しもが悩む「仕事が出来ない部下」への対応。何度丁寧に説明しても、「こうしてくれ」と具体的に指示を出しても、一向に変わらない。
多くの方は、そういう部下を持った時、ダメだとはわかっていても、仕事のできない部下の教育を諦め、他の部下にフォローを頼むことが多いのではないだろうか?
しかし、マネジメントの本質は、「仕事が出来ない人を、どう上手く動かし、会社の生産性を上げていくか?」というものだ。そこで、今回は、仕事が出来ない部下の行動のどこに注目し、どう接すれば変えて行けるのか?という接し方をお伝えしていく。
当記事をじっくりと読んで頂くことで、「これまで何度指導しても、変わろうとしないのはこういう理由だったのか!!」と納得して頂けるはずだ。
是非、あなたの会社での部下教育に役立てて欲しい。
1.仕事ができない部下をマネジメントできれば売上は最大化される
冒頭でも述べたが、マネジメントの課題は、仕事が出来ない部下が起こす様々なトラブルに対してどうすべきか?ということを考えることにある。
なぜなら、仕事ができる人は、別に特別な指示や指導をしなくても、「勝手に判断し、勝手に成長し、勝手に成果を出してくれる。」ありがたい存在である。そのため、優秀な社員に対しては、別に一切マネジメントしなくても問題はないからだ。
しかし、多くの社員はそうでないだろう。
- 指示をしなければ、その状況にあった行動をしてくれない。
- 同じミスを何度も指導したとしても、自分の期待通りの行動をしてくれない。
- 仕事の優先順位が分かっておらず、その状況に合う行動をしない。
- 落ち込んでいる時に励ましてやらなければ、生産性がガクッと落ちる。
- 定期的に確認しなければ、すぐに手を抜き、ダラダラしてしまうことが良くある。
上記の他にもまだまだ思い当たることはあるはずだ。しかし、なぜ仕事ができない部下がそうなってしまうものなのかをじっくりとその原因について考えたことのある人は少ないはずだ。
実は、この仕事のできない部下の心理を考えるところに、改善のヒントが隠されている。
1.1 指示や意図をくみ取れれば仕事ができない部下ではない
仕事が出来ない部下に対して、あなたがイライラする感情から、課題点を導き出してみよう。
- そんなことをすれば、クレームやミスが発生するのが分からないのか?
- なぜ、仕事のペースがそんなにゆっくりなんだ。周りをもっとよくみろ!!
- なぜ、そのクオリティで良いと思ったんだ?仕事が粗すぎる。
- それは前にも言ったじゃないか!!何度同じことを言わせる気だ。
- そこから教えないといけないのか。お前は今まで何を学んできたんだ?
- なぜ自分で考えようとしないんだ。それくらい、考えたらわかるだろう。
これらの感情を抱いたとすれば、あなたの指示内容に対する意図や、目標を明確にした指導がきちんと理解できていないということになる。
もちろん、あなたは、これらの意図を伝えることや指導を徹底しているだろう。
そこで、次に部下はどのように考えているのか?という、部下視点から問題点を考えてみよう。
1.2 仕事ができない部下も部下なりに考えている
次に、なぜ仕事ができない部下に何度も指導や教育を施しても、なかなか改善につながらないのかをご説明していこう。
仕事が出来る・出来ないに関係なく、何も考えずに行動する人はいない。仕事ができないと思っている部下にも何かしらの「そう考えてしまう理由」があるのだ。その理由を部下心理の視点から以下の図で説明しよう。
上記の図を見ると、どちらもそれぞれに判断基準があり、その結果、それぞれの行動に移っていることがおわかりになるはずだ。
つまり、仕事ができない部下も、わざと“間違った行動B“を取っている訳ではない。間違った判断基準が脳にインプットされているために、良かれと思って行動したことが間違った行動に結びついてしまうのだ。
だからこそ「なぜそんなことするんだ?」と怒られても、怒られた本人は「自分で考えて、良い判断だと思った行動をしています。」と、怒られている意味が全くわからないのだ。それどころか「私の気持ち(なぜ、このような判断をしたのか)を、上司はわかってくれない。」と不満を抱くようになる。
つまり、仕事ができない部下の条件や思考を定義することができなければ、具体的な解決策は絶対に出てこないし、いくら熱心に指導しても、部下の心に響かない。
1.3 新人社員の方が教育や指導が上手くいく理由
また、仕事の指導や教育は一般的に、新人社員の方が上手くいきやすい。その理由は新人社員は「間違った判断基準を持たず、まっさらである。」ことに起因する。
スポーツの世界を例に出してみよう。「変な癖がつく前に正しいフォームで練習することが上達への近道だ。」という言葉を耳にしたことはないだろうか?
それはビジネスにも言える。それを示したものが以下の図だ。
新人社員の心理
新人社員は、変な知識や先入観を持っていない。だからこそ、指導内容がダイレクトに伝わり「正しい判断基準が真っ白な器」の中に吸収されやすい。
しかし、同じように上司から判断基準に対して指導が入ったとしても、仕事が出来ない部下の心理は違う。もうすでに間違った判断基準が頭の中に染みついているため、繰り返し指導しても、すでにある判断基準にかき消されて伝わらないのだ。
例えば、あなたにも経験があるだろうが「自分の判断基準は間違っていない。」と思っているときに、相手から批判や指摘をされても「絶対にこっちの方がいいのに…。」と思ってしまうだろう。
つまり、仕事ができない部下をマネジメントする際には、相手が抱えている間違った価値観や判断基準を破壊するところから始めなければ、自分の言葉や想いが正しく部下に伝わらないと言うことを、頭の中に入れておいてほしい。
1.4 仕事のできない人を変えるために必要な破壊マネジメント
そこで、部下の破壊マネジメントを意識した指導を心がけてみよう。
それは、相手の行動を変え、仕事ができる人に変えていくために、以下の2段階のプロセスを踏んでマネジメントする方法だ。
破壊マネジメントにおける3つの手順
- 仕事ができない部下の持つ間違った判断基準を丁寧に説明して、なぜ、それが間違いなのか?ということに、気付きを与える。
- その仕事に対する「正しい判断とは何か?」に対する疑問を抱かせ、フラットな思考(思考の空白化)状態を生み出す。
- 思考をフラットにしたうえで、正しい判断基準とはどのようなものであるか?という指導を行う。
経験者を中途採用する場合によく発生するのだが、以前の会社のやり方を話題に持ち出してくる理由はここにある。その理由は、ヒトは基本的には変わる事への恐怖感を抱く生き物であり、なかなか、自分を変えようとはしないからだ。
だからこそ、「今の価値観が間違っている」・「今のままでは絶対に上手くいかない」という“気づき”を与えることによる間違った判断基準の破壊をしてからでないと、相手の心に響かない。
この手順を踏まずに、いくら熱心にあなたが教えたとしても、絶対に相手の心理は変わらない。相手を変える時にはまず相手の土俵に立ち、相手がどういったことを考え仕事をしているのか?どの心理が邪魔になって、指導を素直に受け止められないのか?などの根本的な原因を特定するところから取り組もう。
しかしながら、部下がどのような間違った判断基準で行動しているのか?ということが具体的にわからないという方も多いのではないだろうか?
他とは違うRABLE式の従業員満足度調査の24項目の全てを以下のページに掲載している。興味を持っていただけたら、一度ご覧いただきたい。
2.部下を確実に変える!マネジメントデータの作成方法
ここまでで紹介した破壊マネジメントが上手くいかない最大の理由は、相手がどこに間違った考えを持っているのか?そして、自分の指導や教育が「本当に相手を変化させていることにつながっているのか?」という、部下心理における原因の理解と、指導側のマネジメント成果が見えにくいところにある。
私たちがコンサルティングをしている企業では、ほとんど100%これらの原因と成果を確認するためーのツールが存在しない。そのため、頭では理解できても現場の中間管理職の全員が、破壊マネジメントを実行できないままとなってしまうのだ。
そこで、ここからの章では「仕事ができない社員が少しずつ変わっていっているのか?」を測定するためのツールを作成する手順をお伝えする。
以下のページでは仕事が出来る人の特徴を16種類紹介している。どのような人材が理想の社員か?と迷った場合には、ぜひ、参考にしていただきたい。
2.1 最終ゴールの具体的な行動目標の設定
仕事をできない部下を、仕事のできる部下に変えていくためには、まず「理想の社員とは誰か?」を定義する必要がある。
そこで、まずは、仕事が出来る人は、どのようなことを意識しているのか?ということを、以下を参考にして書き出してみよう。
クライアントの新規獲得を得意とする社員の行動パラダイム | ||
---|---|---|
行動項目 | チェック用の質問 | 理想の回答 |
傾聴力 | あなたは、新規営業をする際に、真っ先にすることは何ですか? | 顧客の悩みを的確に引き出すこと |
顧客への共感力 | 新規営業をした際に、顧客にどのようなことを感じて欲しいですか? | 顧客に自社の悩みを共感してくれていると感じてもらうこと |
顧客との関係構築力 | 新規営業をした際の理想のゴールは何ですか? | 顧客にとって自分が一番の理解者になること |
顧客との一体化 | 新規営業を獲得するためにはどのような状況になる必要がありますか? | 顧客の社員から頼りにされ、チームの一員になれている状況 |
2.2 仕事ができない部下の行動を抜き出してみよう
理想の社員の行動とその心理を表にまとめることができれば、次に仕事ができない部下の行動例を加筆していこう。
クライアントの新規獲得を得意とする社員の行動パラダイム | |||
---|---|---|---|
行動項目 | チェック用の質問 | できない部下の行動 | 理想の部下の回答 |
傾聴力 | あなたは、新規営業をする際に、真っ先にすることは何ですか? | 挨拶もなしに、いきなり突っ込んだ話をする。 | 顧客の悩みを的確に引き出すこと |
顧客への共感力 | 新規営業をした際に、顧客にどのようなことを感じて欲しいですか? | 顧客の悩みがイメージできない | 顧客に自社の悩みを共感してくれていると感じてもらうこと |
顧客との関係構築力 | 新規営業をした際の理想のゴールは何ですか? | いつまでも営業としかみられない | 顧客にとって自分が一番の理解者になること |
顧客との一体化 | 新規営業を獲得するためにはどのような状況になる必要がありますか? | 常に外部の人間としてみられる | 顧客の社員から頼りにされ、チームの一員になれている状況 |
ここで、重要なポイントは、理想の回答の対比として作ってはいけない。
たとえば、顧客への傾聴力について、「顧客の悩みを引き出せているか?」「顧客の悩みを引き出せていないか?」という評価では、何が課題だから何を教えるべきかわからなくなる。
そうではなく、現実に起こっていること「挨拶もなしに、いきなり突っ込んだ話をする。」など、仕事が出来ない部下に困っている行動を抜き出すようにしてほしい。
2.3 仕事ができない部下の理屈を考えてみよう
最後に仕事ができない部下が「そうした行動をとってしまう動機や心理」を項目化していこう。
クライアントの新規獲得を得意とする社員の行動パラダイム | |||
---|---|---|---|
行動項目 | チェック用の質問 | 理想と真逆の回答 | 理想の回答 |
傾聴力 | あなたは、新規営業をする際に、真っ先にすることは何ですか? | 自社のサービス説明を一生懸命、熱を入れて伝えること | 顧客の悩みを的確に引き出すこと |
顧客への共感力 | 新規営業をした際に、顧客にどのようなことを感じて欲しいですか? | 自社のサービス紹介を徹底し、魅力を感じてもらうこと | 顧客に自社の悩みを共感してくれていると感じてもらうこと |
顧客との関係構築力 | 新規営業をした際の理想のゴールは何ですか? | 次回のアポを取り付け、契約に少しでも近づけること | 顧客にとって自分が一番の理解者になること |
顧客との一体化 | 新規営業を獲得するためにはどのような状況になる必要がありますか? | 顧客の危機感か未来への期待感を与え、自社サービスを必要と思われること | 顧客の社員から頼りにされ、チームの一員になれている状況 |
上記の表では、「挨拶もなしに、いきなり突っ込んだ話をするのは、自社のサービスを一生懸命、熱を入れることが大切だと思っているから。」というように、仕事ができない部下にも、それなりの理屈や意図があることがお分かりになるはずだ。
行動が変わらないのは、「上司の指示には必ず対立しよう」とか、「仕事のやる気や意欲が沸かない。」ということではない。
そもそも基本的な考え方がズレてしまっているから、一生懸命やっているにもかかわらず、結果が出ないのだ。
上記の表はあくまで私たちの例であり、自社の状況によって理想となる行動は変化する。自社のビジネスに最もマッチする行動、逆にしてはいけない行動とは何か?を徹底的に考えるようにしてほしい。
3. データに基づくマネジメントの実行
ここまでで、行動結果とそれらの行動に結びつく心理を定義できた。このように、仕事ができる社員とできない社員の特徴を定義することが出来れば、実際に社内でリサーチを実践する段階に入ろう。
3.1 回答がばらつく項目作りを目指そう
回答をばらつく項目を作る理由を、重要なポイントなので改めてお伝えてしておく。
ここまで書いている内容からご理解いただけると思うが、単純に仕事ができない部下と仕事ができる部下の違いを明確にするためだ。
仕事ができない部下の回答も仕事ができる部下の回答も同じではいけない。そのため、回答は、必ず、仕事ができない部下の回答がAならば、仕事ができる部下は回答Bとならなければいけない。実際に作成してみると理解いただけると思うが、深く考えなければ簡単には成功しないポイントだ。
3.1.1 結果の良いデータを作ったところで何の意味もない。
ここまで作り上げるまでに2週間から1ヶ月程度は必要となるが、可能であれば、何度もリサーチを行い、項目を洗練させていこう。なぜなら、いくら詳細に仕事が出来ない部下の条件を定義しても、集計してみれば「そのような従業員はいません」という集計結果となる場合もある。
回答がばらつかない事例として以下の内容を見ていただきたい。
上記のような項目でリサーチをした場合、ほとんどがBと回答している。Aの回答はもちろんダメだが、Aを回答するほど営業の重要なポイントを理解出来ていない社員ならば、いらないという判断も良いだろう。
つまり、そんなデータを取ったところで何の価値もないということがわかるだろう。
3.1.2 回答がバラけるデータこそ改善に活かすことが出来る
逆に上記のグラフの場合は、回答を変えたことで左右にバラつきが発生している。
つまり、Aの回答を選んだ従業員には、「営業で販売件数を増やすためには、顧客に説明するのではなく、顧客の悩みを引き出し、顧客と良い関係を築くことが大切だ。」と指導ができる。
特によくやりがちなのが、以下のように出来ない社員の行動を定義してしまうパターンだ。
クライアントの新規獲得を得意とする社員の行動パラダイム | |||
---|---|---|---|
行動項目 | チェック用の質問 | できない社員の行動 | 理想の回答 |
傾聴力 | あなたは、新規営業をする際に、真っ先にすることは何ですか? | 顧客への問いかけが出来ない | 顧客の悩みを的確に引き出すこと |
上記の場合、「新規営業の際に、顧客へ問いかけしない。」というような社員など、そもそも仕事として成り立っていない。
自社で実際に起きている課題をピンポイントに抜き出せる項目作りを目指すようにしよう。
3.2 作成した項目を実際に社内でリサーチしてみよう
では実際にこれまでに作成した表を参考にして、以下のような社内アンケートフォームを作成しよう。必ず項目の左と右にテキストを入れ、従業員心理を抜き出せるようにしておくことが重要だ。
上記の設問にあなたも回答してみよう。
どちらの回答を選ぶと、どのような心理であるのか?ということを以下のページで解説している。興味がある方は、ぜひ以下のページにも目を通していただきたい。
3.3 度数データだけでも改善のヒントとなる
社員アンケートを実践できれば、エクセルで以下のようなフォーマットでデータ化をしていこう。
下記の表を見れば、あなたの指導や教育がどの程度、浸透しているかチェックできるはずだ。
すると以下の様に仕事のできない人の心理を可視化することができる。
- 社員A・Bは、売上意識がどうしても抜けず、売り込みたい意識に支配されている。
- 全体課題として、自社のサービス紹介に意識が向き、顧客視点を徹底できていない。
- 理想のゴールや落としどころに関しては、全員がイメージできている。
- 顧客との一体化に関しては、親密な関係までは全員が到達できていない
このようなデータを活用して人材育成に取り組むならば、管理職の評価制度としても活用できる。
以下の記事では人手不足を改善するための管理職の評価制度の運用方法についてご紹介している。
こちらの記事もオススメなので、ぜひ、一度、読んでみて欲しい。
まとめ:リサーチベースド・マネジメントのおさらい
人材育成に取り組みたいと考えているならば、従業員の心理をマネジメントする必要がある。
そのために、RABLEでは従業員心理をリサーチして、どのような意識を持って仕事に取り組むべきか?ということを重視している。
一般的にリサーチと言えば、難しい統計分析をイメージする方が多いが、そもそもの項目がナンセンスであれば、全くの意味がない。大事なのは、社員の行動原理となる心理は何か?ということを徹底的に議論することに尽きる。
このように、徹底して作り込まれた項目は、あなたの会社における他社との差別化に役立つこともあれば、従業員を指導・教育するためのマニュアル作成にも転用が可能となる。
従業員の心理を深く理解し、その心理を変えるところから丁寧に始めていけば、必ず従業員の心理は変化し、売上は簡単に上がっていく。
どこかに必ずあなたの指導や教育が、従業員の心に響かない原因がある。是非とも、あなたの会社でもその原因を追究する試みを実践してみて欲しい。
その価値は絶対にあることを保証する。