企業の人手不足はNEWSになるほど大きな問題だが、ウチの会社も「人手不足が経営課題だ」と言い切れる人は少ないだろう。
なぜなら、売上が上がらない理由は社員の能力が低いかもしれないし、利益が出ないのは販売価格が安いという理由かもしれない。
つまり、単なる頭数が足りないという人手不足ではなく、優秀な人材が不足しているという認識が強いのではないだろうか?
また、多くの経営者は、人材不足を解決するためには、給料を上げることや、手当てを充実させることが正しいと思っていないだろうか?
つまり、優秀な人材を確保するというためには、今よりも人件費を上げるしかない!と考えてしまうため、人材不足を解消することが難しいと感じるのではないだろうか?
当記事を読めば、人材不足による収益の低下にはどのような原因があるのか?また、人材不足がコスト増加につながっている要素には何があるのか?ということを具体的に理解できるだろう。
1.人手不足が深刻な問題と言われる理由
まず初めに、一般論として人手不足が経営課題だと言われる理由を見ていこう。これらのデータは一般的な内容であるのか?あなたの会社にも当てはまる課題であるのか?ということがわかるだろう。
1.1 多くの中小企業で共通している経営課題は“人手不足”
まず下記の表を見て欲しい。下記のグラフは商工中金が行った全国の中小企業4490社を対象にアンケート調査を行い「現在自社が課題としているものは何か?」に対する集計結果をまとめたものだ。
非製造業(サービス業)の企業が現在抱えている経営課題のリスト
参考:商工中金ホームページ
上記のグラフを見てみると、経営者の悩みの大半が[人手不足]であることがお分かりになるはずだ。特に[人手不足]に関してのみ、3年連続で急激な上昇を見せている。
このデータの面白いところは、[現在抱えている経営課題]であるところにある。つまり、どの会社も人手不足の問題を解決できていないどころか、ますます人手不足で悩む会社が増え続けていることを表している。
さらに、政府が労働時間を削ることを目標と掲げているため[職場に押し寄せる業務負担]が、今後も増え続けていくだろう。
1.2 人手(人材)不足が原因で発生する業績不振や事業規模の縮小
言葉遊びをするつもりはないが、多くの企業で問題となっているのは一般論としての人手不足という頭数の話ではないはずだ。
そうではなく、収益を上げられる人材が不足しているという課題ではないだろうか?
そこで、以下の表をご覧いただきたい。Business Labor Trend 2016.7に掲載された調査結果だ。
この調査は人材不足を感じている1253社を対象に「人材不足が経営にどのような影響をもたらしているのか?」に対して、[実際に多くの会社で発生している経営課題]を集計した結果だ。
人手(人材)不足が職場にもたらす問題・課題リスト
参考:JILPT「人手(人材)不足の現状等に関する企業・労働者調査」結果
上記のグラフを見れば、人手(人材)不足が原因で、生産力が大きくダウンする原因となっている事がお分かりになるだろう。売上の取りこぼし、技術力の低下、クレームの増加、人件費の増加などの回答が多い。
1.3 慢性的な人手(人材)不足が職場に及ぼすマイナスの波及効果
では更に、人手(人材)不足が職場に及ぼす直接的な効果についても見てみよう。同調査では、以下のような、人手(人材)不足が職場にもたらすマイナスの効果が報告されている。
同WEBページより作成
上記のグラフを見てみると、ほぼ9割弱の企業が、人手(人材)不足のマイナス面の影響を受けていると答えている。上記のグラフを簡単にまとめると以下のような課題カテゴリに分割することが出来る。
人手(人材)不足が企業活動に与えるマイナス面 | |
---|---|
モチベーション低下 | 職場雰囲気や仕事モチベーションが低下してしまう |
管理コスト増加 | 時間外労働や休職の増加によって財務体質が悪化する |
人材品質の低下 | 従業員を訓練する機会が減少し、人材品質が低下してしまう |
離職率の増加 | 従業員不満足によって離職者数が加速する |
上記の中で、離職者が増加することに注目して欲しい。
つまり、人材不足の企業は社内従業員の不満を生み、管理コストを増加させ、人材不足を加速させる状態になっていくということだ。そして、最終的に離職が離職を生む[デス・スパイラル]の状況に陥る。
この状況になってからはもはや手遅れなので、「社内で辞めたいという社員の話が増えてきたな。」と感じれば、迅速に対策に乗り出すことが大切だ。
人手不足のデススパイラルの発生プロセスと抜け出せない理由については以下の記事で紹介しているので参考にして欲しい。
2.人材不足で悩んでいる業界と事業規模について
さて、ここまで読んでいただけると、人材不足の課題は、優秀な人材が定着するように離職率を改善することから始めなければいけない!ということに気付いていただけるだろう。
更に次のデータを見てもらえば、ほとんどの会社が、人材の定着に悩んでいる事を表している。今は大丈夫と考えておられる方も、一度は目を通してほしい内容だ。
2-1. 飲食・ホテル・サロン経営では2人に1人が3年以内に離職
離職率が高い業種ベスト5 | 高卒者 | 大卒者 |
---|---|---|
宿泊・飲食業 | 66.1% | 50.5% |
娯楽・生活関連サービス業 | 60.5% | 47.9% |
教育・学習支援業 | 59.4% | 47.3% |
医療・福祉 | 51.4% | 38.4% |
小売業 | 48.5% | 37.5% |
厚生労働省 同ページより作成
※生活関連サービス業とは,エステティック,ネイリスト,ヘアサロン,リラクゼーション等を含む
特にサービス業に至っては、非常に人材の定着が難しく、なんと「2人に1人以上が3年以内に辞めてしまう。」という結果になっている。他の業種でも人材の定着化は、年々深刻化している。
2-2. 大企業でさえ2割を超える離職率となっている!
※専門学卒は高校新卒者に含む
引用:厚生労働省HPより
上記のグラフは厚生労働省が報告している新規学卒者(平成25年度3月卒業者)の離職率を表している。このグラフを見れば、大企業でさえ、新卒者が3年以内に離職している割合は2割を超えていることがおわかりになるだろう。
多くの新卒者は大企業に入社することを目標として学んできているのにも関わらず、入社後のたった3年で離職率が2割を超えてしまっている。
2-3. 従業員数100人規模以下の中小企業の離職率は4割以上
上記の棒グラフの中身をじっくりと従業員規模別に見てみよう。すると、従業員規模が小さくなるにつれて、離職率は上昇傾向にあることが分かる。つまり、離職率の問題は、規模が小さい中小企業であればあるほど深刻な問題となっている。
そこで、人材不足を解消するためには、人材が不足している。という課題から、人材が定着しいる。という状況を作り出さなければいけない。
つまり、人手不足だから採用を強化する!という、頭数を揃えればなんとかなる!という入口の戦略ではなく、人材不足を解決するためには、出口戦略としての離職率を改善することが先決に取り組まなければならない。
すぐに辞めてしまう正社員やアルバイトを見つけるために、求人広告に投資して無駄なコストを支払っている場合ではない!
では、離職率の増加(人材不足)が経営にどのようなマイナス面を及ぼすかを見ていこう。
3.人材不足が経営を赤字体質にする12の要素
自社の利益が減ってしまう原因には人材不足が強く関係している。
赤字体質の原因を発見するためには、収益の低下とコストの増加という2つの方向からの視点が必要だ。
人材不足を解消すれば、以下に記載の12の要素は実際に全てを金額に換算することが可能だ!
実際の事例も合わせて読みたい場合は、ぜひ、こちらを一読していただきたい。
3.1 人材不足が自社の収益の低下につながる7つの要素
収益の低下につながる7つの要素では、特に長年働いてきた社員が離職することで影響が出やすい。つまり、売上を上げられる社員の離職によって、どのような人材不足の課題が発生するのか?というこを確認してみよう。
1:採用までの空白期間に業務負担が発生
当たり前だが、新たに求人を出して採用に至るまでには、それなりの日数と人員を要する。また、足りない人員を補充するために時間外労働も発生する。すると、職場に残された社員の業務負担はかなりのものとなってしまい、職場の不満が蓄積されていく。
2:売上の取りこぼしが発生
採用したからと言って、新しく採用した人が前任者と同じパフォーマンスを発揮できる訳ではない。結果、注文や受注を断ることが増え、売上の取りこぼしが発生する。しかし、経営層からは取りこぼしを無くせと厳しい指示が飛び板挟みになってしまう。
3:製品・サービス品質の低下
せっかく育てた人員が辞めてしまうという事は、担当する作業の熟練度もリセットされてしまう。工場のライン工であれば問題は少ないが、人材がサービス力に直結する業種であれば、自社の価値を大きく下げ、職場全体の売上・生産性は大きくダウンする。
4:優秀な社員の離職は職場のやる気を下げる
辞める人は何も新人ばかりでない、むしろ優秀な人材の人の方が、活躍のフィールドを広げる為に、別の新天地を求めることも多い。職場で中心的な人物が辞めることは職場をリードしてくれてきたキーパーソンを失うことになり、職場の活力が落ちてしまう。
5:時間が足りずに教育機会が減少
全く回っていない職場では、悠長に職業訓練や研修をしている余裕はほとんどない。「そんな時間があるのなら、溜まっている業務を少しでも処理しよう。」という心境になる。すると、職場で場当たり的な対処ばかりになり、根本的な改良・改善ができなくなる。
6:離職者が担当していた顧客の流出
出ていくのは人材だけではない。業種にもよるだろうが、担当していた顧客も共に引き抜かれることになる。特に営業・サービス系の職種では、大型の顧客や古参の顧客を引き抜かれ、売上が大きく減少する事になる。売上的にも精神的にも大きな打撃を受ける。
7:技術・ノウハウの減少
ライバル企業への転職や独立開業することになれば、今まで教えてきたノウハウや技術を盗まれることにつながる。もしそれがオンリーワンの価値であれば、市場価値が大きく下がり、取引先や顧客との値下げや交渉が困難になっていく。
これら7つの要素は、全てコストを出すことが可能な内容ばかりだ。
どのようなコストになるのか?具体的に確認したい方は、ぜひこちらの記事を読んでみよう。
では次に、人材不足によって赤字体質につながる費用面の5つの影響を見てみよう。
3.2 人材不足がコスト増加につながる5つの要素
では、人材が不足しているから採用を強化しようと考える前に読んでいただき内容をご紹介しよう。ここでは、新人の採用を強化することで発生するコストの増加と考えていただければ良い。
1:新人が増えることで生産効率が低下
1時間当たりの作業量も度重なる離職によって大きくダウンする。新人ばかりの職場では、人数は多いのに、作業が全く回らない。そして人件費だけが高くなっていくという管理者泣かせの状況になってしまう。赤字体質の職場にならないよう注意が必要だ。
2: 採用・求人広告コストの増加
新たな人材を登用するためには、求人広告や各種採用媒体の運用コストが新たにかかることになる。打ち合わせや資料を見ておくなどの作業は当然かかる。金銭的なコストはもちろん、現場にとっては、時間的コストもかなりのボリュームを負担しなければいけない。
3:面接による時間コストの現場負担
また採用の人数が大きければ、面接コストも馬鹿にならない。大企業や正社員主体の業種でもなければ、当然人事は現場が兼任している所がほとんどだ。面接と言う時間的コストによって、業務作業時間は削られていく。
4:新人教育のための時間コストの増加
会社の人材の定着率が悪く、入れ替え比率が高ければ、当然、社員1人で割った教育コストは跳ね上がる。研修を外部委託しているような場合であればなおさらだ。社員に投資したコストを無駄にしないように改善していくことが重要だ。
5:新人を現場で教育することによる時間コスト
新人社員が増えると、作業に関する指示は細かくしなければいけないし、仕事能力が十分ではない為、成果物の確認もたびたびしなければいけない。つまり、金額に換算されることは少ないが、OJTにより職場の作業にあてる時間が新人教育によって大部分とられていく。
これらの5つの要素も、具体的な金額に換算することが可能だ。
どのような計算になるのか興味を持っていただいたならば、以下の記事も読んでみよう。
3.3 人材不足に悩んでいる会社は人件費コストが高くなる
ここまでご覧になられた方は、いかに離職率を低下させるということが、会社の利益を守ることにつながるのかを実感されたと思う。
人材不足解消の取り組みをせずに、放置しておくと、あなたの職場は以下のようになってしまう。
人材不足初期 | 人材不足中期 | 人材不足末期 |
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人材不足を放置していると、最終的に赤字体質の会社になってしまう。このデス・スパイラルから抜け出していくために、顧客満足度や集客と言う外の視点だけでなく、従業員管理と言う内部マネジメントにも目を向けていくことが重要だ。
内部管理を改善することは、従業員満足度を上げることにつながる。それは従業員のためだけでなく、会社にとっても、教育コスト・採用コスト削減につながり、人件費の割合が低い黒字体質の会社経営の実現に最終的につながっていくのだ。
まとめ
人材不足を考えるにあたって、単なる社員の頭数だけで考えてはいけないことをここまでご覧になられた方は再確認して頂けたのではないだろうか?
以下のブログ記事は、ダイモンドオンラインのブログ記事であるが、とてもわかりやすく書いているので、こちらの記事もおすすめだ。
DIAMOND.JP|あなたの職場に人が足りない「本当の理由」は?
職場が人材不足に陥ることで、
- 自社のサービス力・生産性の低下が起こり、残業や休日出勤が増え、人件費をはじめとする財務体質が悪化し、サービス残業を余儀なくされる。
- その赤字体質が従業員満足度を下げ、更に人材が流出し、残された社員にそのしわ寄せがきて、最終的に業務が破たんする。
これは新たに求人を出して、新人社員を採用しても、失った自社資源は戻らないどころか、ますます自社資源の流出が止められなくなる。だからこそ、離職率の高い会社では、残された社員に業務負担が集中し、最終的に破滅の道に突き進んでしまうのだ。
そうならない為にも、人事担当だけでなく、現場・管理職・経営幹部が一丸となって、事前に離職者を減らす取り組みについて対策を講じることが重要だ。