あなたの会社でもコスト削減は、非常に関心を持っているテーマのはずだ。なぜなら、赤字で困っている企業だけでなく、黒字の企業でも利益率が向上させることは、会社をマネジメントする上で最も重要ともいうべき目標であるからだ。
だからこそ、「今までよりもより効率的に経営が出来ないものか?」と誰もが考える。
下記の記事では、生産性を低下させることなく、人件費削減を両立するヒントについて解説している。まだ、読んでいない方は参考にして欲しい。
どの会社でも大きな悩みの種となる人件費だが、人件費削減を考える上で気を付けたいのが、削減ラインの設定だろう。あまりにも人件費を削減しすぎると、現場が回らず顧客のクレームが増え、売上がコスト削減以上に減ることになってしまえば、本末転倒だ。
そのため、まず初めに人件費の削減を考える上での基本的な枠組みから考えることにしよう。
1.コスト削減の前に、徹底して作業を削減することが重要だ!
まずは、1番最初の手順として、あなたの会社では削減する業務を明確にしているだろうか?ここで、コストを調べる前段階として、どれほど効率的に会社を経営しているのか?ということについて、徹底的に考えてみよう。
1.1 あなたの会社の作業効率化を簡単にチェックできる10の質問
人件費率そのものの計算方法は極めて簡単だ。【人件費÷売上(×100)】で計算できる。しかし、本質的なことは、そんな単なる数値上の話ではない。
現在の人件費率は、あなたの会社の実態を表している。具体的には以下のことを表している。以下の内、あなたの会社はいくつのことが当てはまるだろうか?
作業効率化チェックリスト | |
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1 | 業務のほとんどが手作業のアナログでシステムによる効率化を図っていない。 |
2 | 確認や手続きをする際に、あまりにも多くの責任者のサインを必要とする。 |
3 | 業務のマニュアル化が出来ておらず、担当者の経験や判断に任せている。 |
4 | 仕事が回らない時は、出来るだけ多くの人材を投入する人海戦術を取る。 |
5 | 人材教育はこれと言って実施せず、「感じて学べ。」と言うスタイルだ。 |
6 | 業務の標準化や基準を設定せず、作業スピードは、現場に任せきりにしている。 |
7 | 職場は人材の入れ替えが多く、平均年齢が若い会社だ。 |
8 | 顧客は、昔から付き合いのあるところが多く、新規はあまりとらない。 |
9 | HP・広告などをはじめデザインにあまり投資することはあまりない。 |
10 | 職種や作業内容を細かく分け、作業の幅が小さくなるようにしている。 |
あなたの会社では、いくつのことが当てはまっただろうか?
上記の質問は、主に5つのことに対するチェック項目となっている。
- システム導入により、オペレーションや作業効率化を図っているか?
- 誰もが作業の質を落とさないための作業標準化(マニュアル化)を図っているか?
- 人材の質を高める、キャリア設計や教育システムが存在しているか?
- 優秀な人材を囲い込む、組織風土や組織ブランドを作り上げているか?
- 顧客単価を高めるため、集客努力やサービス品質の向上をしようとしているか?
つまり、人件費率を下げるためには、人件費を削減した分の穴埋めを、どこかでしなくてはならない。
人件費の削減に成功するための5つの条件
- 少ない人員でもこれまでと同じように作業ができるようなシステムの導入
- 作業の効率化をサポート・達成する為に業務内容の再設計と標準化
- 優秀な作業員を育成するための教育システムと目標となるキャリアの確立
- 手塩に育てた作業員を他社に引き抜かれないようにする従業員満足度向上
- 顧客単価を向上させ、効率よく売上を伸ばすためのサービス品質の維持と向上
上記の条件の内、いずれかを達成しなければ、いつまで経っても人件費率を改善することはできない。
1.2 現場視点を重視しなければ、作業効率化が図れない理由とは?
しかしながら、上記で示したような面倒なことをせずとも、人件費の削減は容易にできてしまう。なぜなら、あなたの会社の実情に関係なく、残業の禁止・リストラの実行・休日出勤の廃止、などの命令や指示が出来てしまうからだ。
それが内部マネジメントの恐ろしいところだ。
実際、会社はなんの効率化もしていない。売上も伸びていない。でも、人件費だけを削減する。こんなことが起きてしまうのは、それは経営幹部の一存だけで決定できるからだ。
だからこそ、人件費の削減を考える時は、必ず自社の改善の進捗を見て行うようにしてほしい。
- 作業の効率化は改善されているか?
- 従業員1人1人の作業能力は向上しているか?
- 優秀な人材に頼らず、全体的な人材の底上げが出来ているか?
上記のことに丁寧に注意を払い、考えうる限りの危険性を想定した上で実行することを心がけよう。
2.離職率の改善から人件費の削減を進める方法
ここまで人件費削減を成功させるための5つの条件についてご紹介してきた。しかし、これらのマネジメントシステムにてこ入れすることは、多くの中小企業の皆様からしてみれば、どれも実行が難しいものであると思う。
そこで、当記事では、人材の質の向上という点にのみ注目する。今から説明する内容であれば、あなたの会社でも実行が出来る内容のはずだ。
2.1 生産力の高い人材は、勤続年数が長い?
以下のグラフは、下記の記事でもたびたびご紹介してきた、勤続年数と生産性に関する関係性を表したグラフだ。
当記事だけでなく、下記の図は、以下の記事で別の角度からの話をしている。いずれの記事も、面白い内容となっているので、ぜひ参考にして欲しい。
アルバイトの離職率ですら、改善できれば年間300万円の利益に!
会社の生産性を下げずに、大幅な固定費削減を達成する方法
もちろん、勤続年数が長いだけで、生産力の低い従業員も中にはいるだろう。 しかし、左記のグラフは、勤続年数が倍になれば、その生産性は2.5倍から3倍に変化することを表している。つまり、人材の質を高めるためには、離職させないことが重要な要素であると言える。
その離職マネジメントについて、更に踏み込んで考えてみよう。
2.2 離職率が高いと、より採用コストの負担が大きくなる理由とは?

しかし、その一方で多くの会社では、そのコスト(投資)に見合った効果を得ることが出来ていない。なぜなら、離職が発生しているからだ。
例えば、3年以上労働してくれれば採用コストを回収できる。という事業者だとしてみよう。そのような前提条件がある場合に、3年以上の人材定着率が70%であればどうだろうか?
事例を見ると理解が深まるので、RABLEのクライアントのケースをご紹介しよう。
採用コストに毎年400万円を費やしている。すると、人材への投資効果は、以下の表のようにまとめられる。
採用コスト | 400万円 |
人材定着率 | 0.7(70%) |
3年以内離職率 | 0.3(30%) |
投資ロス金額 | 120万円 |
上記のケースの場合、3年以内の離職率が30%であるため、400万円の30%にあたる合計120万円が無駄になったコストとして発生していることが分かる。このケースは採用費だけの金額で試算しているが、実際には教育コストも発生するのでロス金額は更に大きいものになる。
これが人件費率を圧迫する大きな要因となるのだ。
2.3 人件費削減のポイントは無駄になっているコストの発見
人件費の削減を考える上で「何から手をつけるべきか?」という問いに対して、もちろん様々なアプローチ方法がある。自分のこれまでの経験を信じ、自分が課題に思う事から手を付けていくと言うのも1つの手だ。
多くの方は、データよりも、自分の勘を基に取り組むことの方が多いのではないだろうか?
しかし、根拠もなく勘や感覚で課題点を発見することは良くない。なぜなら、改善が「上手くいった」・「上手くいかなかった」の繰り返しで進歩がないからだ。勘に頼った経営はギャンブルと何ら変わりがなくなってしまう。
データに基づいた経営であれば、改善に成功しようが、失敗しようが、あなたのデータを読み込むスキルやデータから改善案を考えるスキルは、繰り返すごとに洗練されていく。
そうすることで、“当たりはずれマネジメント”から“積み重ねのマネジメント“にシフトしていくことが出来るようになる。最終的には、必ずあなたのコスト管理・把握能力はかなりのレベルに到達するはずだ。
だからこそ、是非とも数値を作成し、数値を読み込む力を身につけて欲しい。
2.4 簡単にわかる!人材投資の効果を実際に計算するためのエクセルデータ
では実際に数値を見ていこう。人材投資を考える上で、まず自社社員の平均勤続年数に注意を払ってほしい。例として、平均勤続年数5年、人件費率30%、教育期間が1年の会社のケースで考えてみよう。
2.4.1 コスト面を見ると、安く見積もっても5年間で1250万円投資している!
教育期間は1年でこの期間内での新人社員は、当たり前だが、労働力として使い物にはならない。むしろ、先輩社員の指導や研修の参加などにより、場合によっては赤字になることもある。しかし、この期間中も給料は払わなければいけない。そのため、従業員への支払い給与となる月給20万円は教育コストとして処理をしている。
つまり、12カ月で240万円の教育コストを支払っている計算となる。
さらに、平均勤続年数が5年であるため、月間20万円の給与を教育期間終了後の4年間支払った場合に、従業員への総支払い給与は960万円となる。
最後に、採用につき1人当り50万円かかっているため、支払ったコストの合計を1250万円としている。
2.4.2 収益面を見れば、5年間で3216万円発生しているが、それで十分だろうか?
この会社のケースでは、人件費率は30%なので、支払給与が20万円から考えると、1人当たりの生産性は20万円÷0.3=67万円と計算できる。その生産力は教育期間が終了してからしか発生しないので、4年間×1人当り生産力=3216万円分、会社に貢献してくれたとして、ざっくり試算している。
本来はもっと詳細に計算すべきだが、これだけのざっくりした試算でも目安を付けるには十分だ。
2.4.3 1人採用あたり160%の人材投資効果が期待できる!
5年間で会社が得た利益は、収益(3216万円)から、コスト(1250万円)を引くと1966万円となり、それを5年で分割すれば1年当り492万円となる。人材投資効果を見るためには、投資コストが1250万円に対し、利益は1966万円であるので、1966÷1250=160%しかないことになる。
つまり、一人を採用し5年間継続して雇い続けることで、投資効果は1人採用あたり160%となることがわかるだろう。
このように細かくデータを作成すれば、マネジメント戦略を考えるための良質な情報を得られる。例えば、教育コストに投資する事で生産力が向上し、人件費率が20%に削減できたとしてみよう。それだけで、かなり多くの利益を得ることができる。
データを整理することで、以下の内容が一目瞭然となるのだ。
- どのような人材への投資を行い、どの部分の改善が達成され、最終的にどの数値向上に貢献するのか?
- またその人材投資を成功させるための、マネジメント戦略としてどれが最適か?
※実際には、教育期間中も何らかの仕事はするし、勤続期間が増える程、生産力は高まる。実際の試算ではもっと細かく細分化するが、当記事ではわかりやすさを重視し、簡略化して解説している。
3.平均勤続年数は人材投資の継続性を表す指標として活用しよう!
ここまでご覧になられた皆様の中で勘の鋭い方ならば、もうあることに気付いたはずだ。
初期投資を安くするためには、長い期間働いてもらえればいいのでは?と。
全くその通りだ。教育コストがある程度高くても回収期間を10年、20年と伸ばすことが出来れば、コストの負荷は小さくなる。これこそが昔の日本企業の得意としていた終身雇用制度の真価だ。
そのことを表したのがアルバイトの離職率ですら、改善できれば年間300万円の利益に!の記事でご紹介している以下の図だ。
この図を見てもわかる様に、会社の人件費を削減するためには、できる従業員の平均勤続年数を長くすることが重要だ。
そうすることによって、人材への投資効果は高くなり、会社の人件費の占める割合が小さくなる。
このように数値を駆使することができれば、自分の企画した改善が成功する根拠を具体的に実行する前から作り込んでおくことが出来る。より長期の見通しを持つことこそが、成功するマネジメントの秘訣だ。いきあたりばっかりの出たとこ勝負の経営では、いつか限界が来てしまう。
そうならない為にも、数値を使いこなせるマネジメントスキルを身につけることは、あなたにとって、必ずプラスに働くはずだ。
まとめ
ほとんどの会社で人材に対する投資効果というものは見過ごされがちだ。なぜなら、数値化することが難しいからだ。しかし、これが広告などの場合はそうでないだろう。
- 30万円広告をだして、新規を何件獲得できた?
- 1人当り、獲得コストはどの程度か?
などの数値を見る人は非常に多い。しかし、それが人材への投資となるとさっぱりだ。
あなたの会社はどうだろうか?悩んだ時には、一度、下記の質問を自問自答してみよう。
- 平均勤続年数は何年くらいだろうか?十分な採用コストの回収ができるだろうか?
- 新入社員の定着率は何%を推移しているだろうか?何%に改善したいだろうか?
- 最後は、自社の平均勤続年数からみた投資効果を把握できているだろうか?
会社を動かすのは、モノでもなく、情報でもなく、商品でもなく、ヒトだ。どんな優れたエクセレントカンパニーだって10年後は倒産していることも珍しい事ではない。
だからこそ、自社の人材への投資は上手くいっているか?ということを数値化して把握しておくことは極めて重要だ。広告などの効果測定とは違って、少し計算が複雑で、考えにくいテーマではあるが、是非とも真剣に取り組み、集客と同様、数値で把握することにチャレンジしてみてはいかがだろうか?