「うちは小さい会社だから…」、「業界的にそうだから...」など、あなたの会社では、人手不足や採用難を仕方ないものとして諦めていないだろうか?
離職を止められないから採用でカバーする。仕事を教えてもすぐに辞めるから、何とか自分が頑張ってカバーする。そのような状況から誰もが脱出することを本音では願っているはずだ。
そこで当記事では、離職率の平均と離職率の解釈の仕方、そして「なぜ社員50人程度の中小企業や飲食店でも、大手よりも離職率を低く出来た。」という成功の鍵についてみていきたいと思う。
そこにはある共通点が隠されている。
離職に悩み、そこから脱却していきたいと考えておられるのであれば、是非最後まで読んでみて欲しい。
1.離職率とは
離職率とは入社からカウントして、期間内に何割の社員(スタッフ)が辞めたかで計算される。
例えば一般的な3年以内離職率の場合、その年の入社した社員を分母として計算する。
離職率の計算例:2017年の3年以内離職率の計算方法
(2017年に入社して3年以内にやめた社員数)÷ (2017年に採用した社員数)
また離職率に厳密な定義はなく、アルバイトを対象にするのであれば、半年や1年以内など、最低限働いてもらいたい目標平均勤続年数を設定して計算しよう。
期間を細かく設定して、各年度の離職率を計算すれば、一般的に良く見る以下のような累積離職率のグラフを作成できる。
以下の記事では離職率の計算方法やエクセルで簡単に自動化する方法を丁寧に解説しているので、表やグラフの作成方法を知りたい方はそちらを参照するようにして欲しい。
1.1 離職率の平均と数値があらわす会社の状況
次に厚生労働省が公表している平成30年度における業種別の入職率・退職率データをみてみよう。以下の表をからはサービス業が特に離職率が高い事が見て取れる。
このデータの算出方法は、正社員だけでなく、アルバイトも含んでいる。それは入職率を見てみると明らかで1年間でかなりの人材が入退職している。そのため、どうしてもサービス業の離職が高く出がちだが、大体平均して30年以内離職率は、12~13%前後が相場であることがわかる。
1.2 離職率が高い業界と離職率が低い業界の違いとは?
離職率が高い業界と低い業界の違いを理解するために、まずは、もっとも多い離職理由について考えてみよう。
離職理由におけるベスト3は、「休みが取れない」・「業務時間が長い」・「人間関係が悪い」の3つだ。特にサービス業は、ビジネスモデル上、3つに該当しやすい。
例えば、アルバイトが多い職場では、休みが取りたくても人員が足りない。さらに、アルバイトが新人ばかりであれば、仕事を任せる事が出来ず、休みの日でも閉店作業や入金作業だけをやりにサービス出勤をせざるを得ないことだってある。
それと平行して会議や打ち合わせなどが発生し、大抵お店が休みの日に行われることが多い。人手が足りない宿泊業や飲食業では、営業時間が終わった後に、管理・事務業務をこなしていることも多い。
さらに、宿泊業や飲食業では、正社員はそれぞれの店舗に配属されるので、関わり合いが薄く、普段接するのはアルバイトばかりになりがちだ。すると、どうしても意識や年齢に溝が出来るため、プライベートが充実しないのも1つの要因と考えられる。
このような理由から、宿泊業や飲食業では、他の業界よりも離職率が高くなりがちだ。
離職率の高い業界というのは、マネジメントに対する考え方が古い傾向がある。あなたの会社はどうだろうか?気になる方は、以下の記事で、具体的にやる気がなくなる職場の特徴をチェックしてみよう。
2. 離職率が高い会社と離職率が低い会社の違いとは?
では、どのような会社でも、宿泊業や飲食業などの離職率が高い業界では、どの会社も離職率が高いのか?と言えば、そんなことはない。
例えば、休みが平日に週2日であったとしても満足度は大きく変わることがある。
休日を取れないという不満は、自分の知人や家族とのライフスタイルのギャップ、「スケジュールが会わない」、「同窓会や趣味のイベント、結婚式に参加できない。」など、プライベートが貧しいと感じる程度を指す。「単純な日数さえあれば満足する」というわけではない。
そういった業界問題に対し、人手不足に悩んでおらず、優秀な人材を獲得できている飲食店では、強制的ではなく自発的に人間関係を育ませ、社員同士でプライベートを有意義に過ごさせる取り組みをマネジメントしている。
つまり、離職率が高い・低いというのは、業界には関係なく、社員の幸せを考え、「仕事と同じくらいプライベートが重要で、人生を楽しんでもらう。」という”ライフクオリティ”をトップが考えており、それが仕事にプラスの影響を与え、生産性を高めるということに大きくつながるというマネジメントの本質を理解している会社であるといえる。
2.1 中小企業でみられる離職率が高い理由
次は、事業規模によって離職率が変動するのか?という違いについてもみてみよう。
以下のデータは中小企業庁が中小企業を対象にしたアンケートの結果だが、その回答が示すとおり、一般的によく言われる「給料が不満」・「労働時間が長い」・「人間関係」に不満を持っている事がわかる。
それについて考えてみよう。
離職率が高くなれば、やめた人数を補填するために当然採用広告を増やさなければいけない。その結果、新人ばかりの職場になり、生産性が低くなる。最終的には、多くの人員を投入しなければいけなくなり人件費は上がる。
すると給与を増やす余裕はなくなるし、新人に仕事を教え、そのフォローをする先輩社員の業務は全く楽にならない。
その結果、新入社員のほとんどが、「覚えの悪い」と先輩社員から判断される傾向が高まり、人材育成が上手く機能しない職場環境となってしまう。
そのような人手不足の負のスパイラルに多くの中小企業が陥っている。
成長しない会社は、離職率の高さよりも、優秀な人材が流出している可能性も高い。そこで、優秀な人材が感じる不満を知りたいと感じた方は、以下の記事を読んでいただきたい。
3.離職率が高くなりやすい職場・会社の共通点
では、どうすれば、人手不足の負のスパイラルが止めることができるのか?まず離職率の高い企業の共通点を確認し、その改善のキーポイントを探ろう。
3.1 離職率が高い企業の共通点とは?
離職率が高い会社には、以下のような共通点が見られる事が多い。
- 休みが取れない
- 残業をせざるを得ない職場状況
- 負荷に見合わない給料
- 希望に合わない転属・人員配置
- コミュニケーションが取れない・人間関係が悪い
- 指導や指示が全くない
- 上司の気分や思いつきに振り回される
- パワハラやモラハラが横行している
先ほど説明したとおり、離職率が高い職場では、生産性は低く、業務に追われている。また離職率が高いため、「指導してもすぐに辞める」という諦めの感情が蔓延しており、新人に単純作業しか任せない。
また現場も放任主義で管理職の才覚に任せているので、パワハラ・モラハラが横行し、ベテラン社員と新人社員の間に溝ができている。
そのような環境では、良い成果に結びつくはずがない。そのため、生産性が低下し、さらなる人手不足の状況に陥ってしまう。
3.2 離職率が高い会社の原因の大半はマネジメントにある
離職率が高い企業では、現場にほとんどの裁量権が与えられ、現場責任者のモラルや能力、経験に依存しているケースが多い。
会社サイドからの指示といえば、「○○を朝礼で話してください。」「□□を徹底し、現場で出来るようにしてください。」などメールでやり取りしたり、会議では「全員で資料を読んで確認する。」程度のものである事が多い。
実際に会議で問題になったことや決定事項、スローガンに対して、現場でどのようなことを、どのように行っているかの把握もしていなければ、それに対する介入もすることはほとんどない。
つまり、体系だった人事考課や評価もなく、全てのことは現場の上司の主観や判断で決定される。そのため、現場では、上司に嫌われない、上司に歯向かわない事が求められるようになる。
そのような現場管理ができていない状況では、「評価に対する不満」、「上司のやり方や態度に対する不満」が出るのは当然のことだ。
社員の質を向上させることや、離職率を改善するためには、人材育成、上司評価に関する仕組みを作ることが重要だ。
3.3 離職の改善を優先しながら人材育成に取り組もう
では、どのようなマネジメントに取り組むべきだろうか。
離職対策というのは、実はあらゆるマネジメント施策よりも優先度、プライオリティが高い施策だ。
社員の能力を高めたり、効率化していくことは非常に重要なことだが、成長には成功・失敗経験、専門知識という積み重ねを必要とする。しかし、離職が発生してしまうと、”社員に経験させた勤務時間という資産”が無駄になってしまう。
しかし、もしも離職率を抑えることができれば、丁寧に人材を育成できる時間を確保できるようになり、スキルアップを行うことで、全体のレベルが上がり、結果的に掲げた目標を達成する能力・スキルを身につけることが出来るようになっていく。
離職率を管理職のマネジメント成果の1つとして導入し、その評価方法については以下の記事で解説している。また同記事で人材育成に関する成果を可視化する方法も合わせて紹介しているので、お勧めの記事となっている。
では、上手くいった企業では、どうやってその状況から脱却したのか考えてみよう。
4.サービス業や中小企業で成功したケースに見られる共通点
離職問題に対して真剣に取り組み改善に成功した企業にはある共通点がある。それは、出来ないと考えず、どうすればよいか徹底的に考えぬいたことだ。
それは飲食店であっても零細企業であっても変わらない。
そこにはマネジメントへの真剣さ・情熱がある。
4.1 新入社員の離職率と人材育成にチカラを入れた会社
中小企業では、大手とは違い、新入社員が数人である場合や各部署・店舗に1人ずつ配属される場合が多い。そのため、「職場に馴染めず辞めてしまう。」という場合が非常に多い傾向が見られる。
カネテツデリカフーズという会社では、以前は「仕事はみて覚えろ」というものであったが、社員のコミュニケーション不足、スキル・ノウハウ共有に問題が生じ、優秀な社員とそうでない社員という課題に直面し、全体としての生産性が向上しないことに悩んでいた。
そこでその風土を自分たちで変えていかないといけない。風土を変えるために、社員1人1人の意識を変えるために「マンツーマン制度」をつくり、その先輩社員の知識では対処できない場合、他の社員が補足する体制を作り上げた。
その結果、社員の意識が変わり、離職率低下を達成する事が出来た。
4.2 アルバイトに仕事を任せることで離職率を改善した会社
これは特定の会社のケースだけでなく、飲食店に多い共通事例だが、店長の労働時間や業務量が多いことがあり、そのため、負荷が大きく離職されてしまい、事業の拡大が出来ないというケースだ。
そこで、事業拡大のためにも店長クラスの離職率を抑える取り組みのために、「店長の労働時間を減らすための状況を作り上げよう」と取り組む企業も多い。
この場合の課題は、アルバイトとの信頼関係が結べない、管理体制が構築できないという理由が根底にあるため、休みの日であっても閉店作業をするためだけに店長がサービス出勤するというのは常態していることも多い。
しかし、営業時間における指示出し、発注業務、閉店作業、指導業務、入金業務というのはアルバイトでも不可能な業務ではない。
リーダーアルバイトの時給を上げ、評価するような体制に変更し、アルバイトの中から右腕と呼べる存在を作り上げ、営業時間中に事務作業をこなし、レジ金盗難を防ぐ体制を作り上げる事が出来れば、自分が休めるシフトを組むことで週2日の休日を作ることは十分に可能だ。
サービス業が事業を拡大するためにも、店長や正社員の休みや労働時間を削減する取り組みは必要であり、そのために、試行錯誤すれば離職率は改善できるようになる。
4.3 採用コストを減らすことに成功した人材派遣事業所
ある派遣会社では、派遣する人数で利益を上げるのではなく、「○○の業務をこ予算内でやってくれ」という業務を請負ビジネスモデルだった。そのため、利益をあげるためには、少ない人数で業務を請け負った方が利益率の良い契約だと考えられた。
そのため、少数で成果を出すことが重要となるため、足を引っ張るスタッフや、仕事を覚えたての新人に対して敵対心や威圧感が発生しており、採用してもすぐに離職されてしまう傾向が強くなっていた。
そこで、この事業所の責任者は、経歴の長いスタッフに対し徹底的なサポートと面談を繰り返し、少し長い目で見て仕事の出来る人を増やすことが、利益率の良い成果を出せることだと伝えていた。
多くのベテラン社員が、「私は教えた。私は伝えた。」という指導のゴールではなく、「指導した相手が理解した。指導した相手が行動できた。」ということゴールに変えることに成功した。
次第に作業能力が高いスタッフが増えていき、先輩社員を慕ってくれる新入社員と、連携の取れた業務をこなすことができ、大幅に成果が変化した。
誰もが働きやすい職場に変わったことで、当然ながら、離職率が下がるだけではなく、将来的に成長してくれる人材を育成できる組織に変化した。
当記事では具体的な離職対策については触れていないが、以下の記事で離職率を下げるために必要な離職防止の5ステップについて解説している。目標の立て方から、社員たちの意識を変えるための手順を解説しているので是非参考にして欲しい。
まとめ.離職率はマネジメント成果を確認する指標
離職率とは、高いか低いか?ということが問題というよりも、それを課題に感じてマネジメントに取り組んでいるか?ということの方が重要だ。
適正な離職率というものを模索するためにも、離職によって無駄が発生していないか?ということや、トラブルやクレーム、または、1人あたりの生産高が低下していないか?ということをチェックするために活用しよう。
もしも、従業員数が減少し、じわじわと売上を落としているならば、マネジメントの改善、取り組みへの必要性について社内で話し合ってみることをおすすめする。
離職率に対する正しい知識を得て、真摯に向き合えば、必ずあなたの会社は業績を改善し、事業を拡大することができるはずだ。