「アルバイトを採用しても1年間も続かないんだ!最近のヤツは根気が無い。」と、早く辞めてしまう人を非難する声は止まらない。しかし、改めて考えてみて欲しい。
働きたい!と言って面接を受けに来た人もヒマだから来たわけではないし、面接する側も早期に離職して欲しいなど思ってもいない。お互いのニーズが合致した結果で働くことになったにも関わらず、離職率が高いならば改善すべきではないだろうか?
さらに、恐ろしいことにアルバイトが1年以内に10人辞めるだけで年間300万円程度の利益を損ねている可能性があるのだ。もちろん、これほどの金額にならない企業もあるだろうが、徹底してデータを集めてみると意外な結果が見えてくるかもしれない。
そこで、今回は、離職率が高いと損失が膨らむ!という、人材とコストの関係性を徹底して解説しようと思う。
本日のブログは、全体像を理解してもらう内容となっているため、とても重要なことを書いている。ぜひ、最後まで全ての内容を熟読していただきたい。
1. マネジメントのキホンは離職率を改善すること
この世に様々な経営ノウハウが存在するが、簡単にまとめると「ヒト・モノ・カネ」をいかに上手く運用していくかということに集約できる。
その中でも「ヒト」の占める割合は極めて大きい。
なぜなら、「カネ」を改善しようと思っても、商品の原価を下げることは容易ではないし、「モノ」を改善しようと思っても、自社のオペレーションやマニュアルを改革することは多くのリスクを背負わなければいけない。
だからこそ、「ヒト」の意識を改善することが、自社の利益を変える上で、一番現実的で効果の高い方法となる。自社人材の意識改革において、あなたの会社の離職率をデータから確認するのが一番手っ取り早い方法であるかをこれからお伝えしていこう。
1.1 離職率の改善は収益と費用を両立させる
基本的にヒトは「時間」と「経験」によって、成長していく生き物だ。入社1年後の社員と入社5年の社員を比べて見ると、1日当りの作業量は、2倍から3倍ほどの差が出る。つまり、職場の平均勤続年数が高ければ高いほど、職場の効率性や生産性は高くなる。
また、人員の入れ替えが少なければ、採用コストや教育コストももちろん低くなる。なぜなら単純に採用しなければいけない頭数が少なくなるからだ。詳しいコストの計算については当記事の3章でご紹介している。
1.2 離職率の改善に意欲的でない企業が多いのは数値化できないから
しかし、離職率の改善には意欲的でない企業が多い。その理由は売上のように数値化しにくいところにある。
「売上が○○万円下がりました。」なんて聞くと、「それはヤバい。すぐに対策を練らなければ!!」と考えるものだが、「最近、辞める人が増えてきています。」なんて聞いても「ちゃんと対策を練る様に。」という対応をする会社が少なくない。それはあまり具体的な問題のイメージが持ててないからだ。
しかし、以下のようなものであったらどうだろうか?
- 最近、離職者が多く、職場全体の生産性が低下し、○○円の損失が出ています。
- 採用・教育に○○円のコストが発生し、利益を圧迫しています。
上記のような報告が担当者から上がってくれば、あなたの目の色はきっと変わるはずだ。以下の表を見て欲しい。
表1:離職によりクライアント企業が負担したコスト
人材採用から教育までのコスト産出 | |
本年度採用人数 | 36人 |
【年間】採用・面接の合計コスト | 403,200円 |
【年間】教育の合計コスト | 17,507,520円 |
【年間】売上損失コスト | 20,471,040円 |
合計教育投資金額 | 38,381,760円 |
新人1人育成必要コスト | 1,066,160円 |
1年で消化される金額 | 31,984,800円 |
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この表は10店舗ほどの店舗経営をしているクライアントの【離職による損失金額】を算出したものだ。この会社の従業数は30から40名ほどだ。にもかかわらず、3000万円程度の損失が出ている。
これは決して大きい数値ではない。なぜならこの表には「コスト削減」だけでなく【本来得られたはずの売上や生産量】を含んでいるからだ。
私たちRable(ラブル)では、単純に離職率の測定をするだけでなく、離職によって人材資源を喪失したことによる潜在コストをクライアント企業に報告している。
このようにあなたもマネジメントに関する問題を金額ベースで可視化することによって、問題の大きさを精確に把握することが出来るようになる。
ここまでの金額を出して特に採用についてのコストが圧迫しているならば、以下の記事を参考に採用コストを見直していただきたい。
新卒1名採用に50万円も必要?コスト管理のための具体的な13の計算項目
【採用コスト削減】良い人材の採用率を上げるための面接コスト投資法
ここまでお話させて頂いたようにマネジメントの成果を数値で可視化することは極めて重要だ。ここからいよいよそのノウハウを説明していくので、是非参考にしてもらえれば幸いだ。
2. 離職率の改善に成功すれば収益がなぜ上がるのか
ではまず離職率と生産性の関係性から考えていこう。
2.1 高度経済成長期の日本に学ぶ生産性の上げ方
日本の人事考課はこれまで「年功序列制度」によって成り立ってきた。年功序列制度とは、“勤務年数が長くなるにつれて、仕事に必要な能力が上がる“という仮定によって成り立っている。
以下の表を見て欲しい。以下の表は厚生労働省が公表している勤続年数の変化と労働生産性の変化についてまとめたものだ。

厚生労働省が公表している勤続年数の変化と労働生産性の変化
このグラフを見れば、勤続年数が倍になれば、その生産性は2.5倍から3倍に変化することがおわかりになるはずだ。生産性を高めるためには、できるだけ長く自社で勤めてもらうことが重要であると言える。つまり、離職者が増えれば、自社の生産性が低下してしまうことになる。
2.2 営業職であれば売上の取りこぼしが発生する
事務職や製造であれば生産性の低下だけで済むが、営業・接客職の場合であれば、それだけでは済まない。離職した社員が抱えていた顧客の流出やある程度の経験をもった社員であれば獲得できていた新規顧客数などの取りこぼしが発生するからだ。
以下の表は、サロンを経営している私たちのクライアント企業の売上損失を推定したものだ。
新人1ヶ月目の生産性損失 | |
新人1ヶ月目の出勤日数 | 12日 |
新人1ヶ月目の時給 | ¥780 |
新人1ヶ月目の労働時間 | 96.0時間 |
月間平均コスト | ¥74,880 |
1ヶ月目の生産力の差 | ¥136,320 |
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新人2ヶ月目の生産性損失 | |
新人2ヶ月目の出勤日数 | 20日 |
新人2ヶ月目の時給 | ¥780 |
新人2ヶ月目の労働時間 | 160.0時間 |
月間平均コスト | ¥124,800 |
2ヶ月目の生産力の差 | ¥86,400 |
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新人3ヶ月目の生産性損失 | |
新人3ヶ月目の出勤日数 | 22日 |
新人3ヶ月目の時給 | ¥850 |
新人3ヶ月目の労働時間 | 176.0時間 |
月間平均コスト | ¥149,600 |
3ヶ月目の生産力の差 | ¥61,600 |
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もちろん、数値の算出方法は自社のビジネスモデルで変化するので、あくまで参考としてみてほしい。いかに離職者増えることで会社の利益が失われるかがおわかりになるはずだ。
2.3 離職率が高くなると教育の質は下がる
離職の増加は職場の従業員の心理面にも大きな影響を及ぼす。もし、あなたが新しく職場に入ってきた社員に対して「どうせこいつもすぐ辞めるんだろうな」という気持ちを少しでも持ってしまえば、「手塩にかけて育ててやろう。」という気持ちを持てなくなるはずだ。
あなたはこれまでに一生懸命育てた部下が辞めてしまいがっかりした気持ちになったことはないだろうか?
離職率が高い会社ほど、人材の質が低下し、サービスの価値が低下することで、売上が下がってしまうことになる。
あなたの会社でも人材の質が下がっているとすれば、以下の記事を参考に教育コストを見直しを図ることをおすすめする。
新入社員の教育方法を考える前に試算しておきたい8つの育成コスト
3. 離職率を改善することで大幅なコスト削減を見込める
では次にコスト面を見てみていこう。収益と同様に、多くの方が想像している以上に、コストがかかっていることを体感してもらえると思う。
3.1 人材を教育するために発生しているコストを洗い出そう
新しく人材を採用し、教育する過程に発生する潜在コストとして以下のものがあげられる。
採用から教育までに発生するコストの一例
- やる気があり、自社に合う人材を集めるための広告や自社紹介物の制作・運用コスト
- 長く続けてくれる人材を見抜くための面接基準の作成・運用
- 新しく採用した社員を現場に投入するまでの初期研修
- 日々発生してくるコストだが、職場での業務を通じてのOJT教育
- 人材育成を強化する場合に発生する成長段階に応じた各種研修
特に現場でのOJTは、実作業時間が大きく削られる原因となる。新入社員に仕事を教えている時間はもちろん普段通りのペースで仕事をすることは当然ながらできない。
新入社員の数が多くなるか、指導時間が長くなればなるほど、職場の生産性は低下していく。それが職場にどの程度負担になっているかを金額ベースで出すことが重要だ。
私たちの場合であれば、クライアントに対して必ず以下のような金額に換算し、実情を把握して頂けるようにしている。
3.2 人材に投資したコストは必ず回収しなければいけない
ここまでご覧になられて、会社は社員に対して多額の教育コストを負担している。当たり前だが、投資したコストは必ずどこかで回収しなければならない。なぜなら回収できれば赤字になってしまうからだ。
入社段階では、教育費用+支払っている給与より低い労働生産性となっているのが通常だ。
仮に総支給25万円で労働力が15万円程度だったとすると10万円の赤字になることがわかる。
しかし、ある程度経験を積み、仕事に慣れてくるようになると、1人当たり100万円分の仕事が出来るようになり、その時初めて人件費率は25%になる。
そうやって会社は投資した教育コストを回収している。
俗にいわれる3年働けの根拠はこの部分になる。3年程度働いて初めて、一人前の社員になり、会社は投資した教育コストを回収することに成功する。それをまとめたものが以下の図だ。
3.3 離職によって教育コストが回収不可能になる
しかし、この社員教育に関する考え方は、“終身雇用制度”を前提としている。途中で新入社員が辞めることなく、働き続けてくれれば回収できるが、もし、教育コストを回収する前に辞めてしまえば、その教育未回収金額は会社が負担するはめになってしまう。
だからこそ、離職率が高い会社では、教育にコストをかけることを避けるようになる。なぜなら、教育コストを投資しても、その金額が回収できずに離職されてしまうからだ。
その結果、社内全体の人材の質が低下し、競争力が低下し、結局、売上が落ちてしまう。しかし、人材を育てようとも辞められてしまうので、コストを割く事も出来ない。
だからこそ、人材の質を上げ、売上を高めていくためには離職率の改善が重要になるのだ。
3.4 教育コストの無駄を減らすためには離職率の改善が必要不可欠
Rableでは、必ず以下の様に教育コストの回収期間を設定するようにしている。そうすることで、離職率改善の目標値を設定することが出来るようになるからだ。
月間平均売上 | ¥160,000 | ざっくりと平均離職期間 | 6か月 |
---|---|---|---|
売上に占める人件費や管理費など必要経費 | 60.0% | 離職人数 | 12人 |
上記を抜いた割合 | 40.0% | 定着人員数 | 5人 |
1人当たり教育コスト総額 | ¥258,539 | 離職による減価償却未消化月数 | 1.2か月 |
1ヶ月当りの教育減価償却額 | ¥38,400 | 離職による減価償却未消化額 | ¥23,139 |
減価償却に必要月数 | 6.7か月 | 減価償却未消化額合計 | ¥337,673 |
定着人材の1ヶ月当り償却額 | ¥184,320 | 未消化額の償却に必要月数 | 1.8ヶ月 |
目標値が設定できれば、次は離職率を改善することで、どれだけの利益改善が見込めるかを出していこう。
現在の離職人数 | ||
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離職期間 | 離職人数 | 離職率 |
1ヵ月以内 | 5人 | 29.8% |
3ヶ月以内 | 1人 | 6.0% |
半年以内 | 4人 | 23.8% |
1年以内 | 0人 | 0.0% |
2年以内 | 2人 | 11.9% |
定着人員数 | 5人 | 28.6% |
合計 | 17人 | 100.0% |
上記の例であれば、採用した社員が少なくとも、8カ月以上働いてくれれば、上記の【1年で消化される人材育成への投資額】のコストは全て削減することが出来るという改善見込みが得られることがわかる。
企業活動にとって、人材を採用することも離職を防ぐことも、人材投資という視点で考えなければいけない。
誤解を受けないために伝えておくが、一生懸命がんばって組織に貢献してくれる従業員には、投資を惜しんではいけないが、サボっている従業員への投資は削減することが重要だということだ。
具体的に人材への投資効果を確認したい場合は、以下の記事を参考にしていただきたい。
離職データから人件費削減!人材への投資効果を計算する具体的な方法/p>
まとめ
売上と違い離職率の改善は多くの会社で後回しにされることが多い。その原因には、金額で可視化しにくいところが大きく影響している。
しかし金額で出すことができれば、これほど会社に大きく影響する課題はそうそうないことが実感できるはずだ。
優秀な社員を逃せば、生産性と売上が下がる。人員を補充するためにコストがかさむ。
離職は収益と費用の両方に影響を与える経営で最も重要な要素の1つと言える。多くの経営者が「人は財産」と言うこともあながち間違いではないことを実感して貰えたはずだ。
もしあなたが自社や職場の利益改善に取り組みたいと考えているのならば、是非、離職率の改善に取り組んではいかがだろうか?改善に成功すれば、大きな結果をもたらすことは間違いない。